Digital Iwago Iwago's Report

岩合さんが世界各地で撮影した写真レポート。Mapの見たい場所をクリックしてね。

2007年3月に富山を訪れた。昨年から今年にかけては暖冬で、北陸の積雪量は前年の10分の1以下と聞いていたのだが、いくつものトンネルをくぐり抜け、黒部インターで降りると、そこは雪景色だった。3月になってから雪が降ったのだという。朝の光がキラキラと反射する雪の畑を、ネコが慣れた足取りで悠然と歩いている。町の道路脇では、ネコが雪解けの水を飲んでいた。

 

ある家の玄関から、派手な半天を着たキュートなメスネコが顔を見せた。モデルになってもらおうと、近づいてカメラを向けた。そのとき、僕の目の端が、オスのネコをチラッと捉えた。と思った瞬間、そのオスは猛然とメスにアタック。メスはびっくり、半天を脱ぎ捨てて走り去り、縁の下に逃げ込んでしまった。雪が降ろうと、春は春、ネコは恋の季節を迎えたのだ。

足元にいるのは、ネコ、ネコ、ネコ、ネコ…。ネコに埋め尽くされて、床が見えないほどだ。僕は、何十匹ものネコが暮らす家を訪れた。ファインダーからあふれるほどのネコの集団は、圧巻だった。陽の当たっている二階の窓辺には、ぬくもりを求めてか、ネコが等間隔に寄り添うように並んでいる。


黒部市を後にし、お寺のある落ち着いた佇まいの町に到着した。ここではネコの動きも落ち着いて見える。石畳の真ん中で、ネコがゴロッと寝そべっている。脇には雪の名残りがあるが、日溜まりが心地いいのだろう。しかし、それは太平洋側の人間の発想らしい。この時期、日本海側の太陽は、まだ輝きに乏しいという。3月の富山は、ヒトもネコもうららかな春の陽射しを待ちわびていた。

2007年3月、富山での撮影取材を終えた僕は、その足で岐阜の白川郷を訪れた。真っ白な雪に埋もれる中に、合掌造りの集落が見える。水墨画を見ているような光景だ。民家の軒先では数匹のネコが、お互いの身体で暖をとるかのように身を寄せ合っていた。雪はしんしんと舞い降り、ネコの背中にも降り積もる。

あるお宅のネコたち(飼われている、という言い方はどうも好きになれない。ご主人のいるネコ、と言うべきだろうか。)を雪野原で撮影させてもらう。ネコといえばコタツで丸まっているものと思いがちだが、さすが雪国のネコ、冷たい雪の上にいても全く動じない。以前、娘が東京から連れてきたネコのニャン吉を、雪景色の中で撮影したことがあるのだが、その時とは大違いだ。都会育ちのニャン吉は雪の冷たさに、いったい何が起きたのかと大慌て。手を振り払ったり舐めたり、いかにも不愉快そうな様子だった。ご主人が雪玉をつくり、雪国のネコに向かってほうり投げる。ネコは、その雪玉をキャッチしようと追いかける。また、ご主人が投げる。また、追いかける。投げる。追いかける。投げる。追いかける。これは見ていて楽しい。次の日、ご主人に代わって、今度は僕が雪玉を投げてみた。僕が投げても、ネコは見向きもしない。きっとネコは、自分が遊ぶことでご主人が喜ぶことを知って、遊んでいるに違いない。遊んでもらっているのは、ネコなのか、ご主人なのかと考えてみた。