撮影取材記:ボルネオ編 第1話・第2話・第3話

岩合さんが世界各地で撮影した動物たちの写真レポートです。国・地域別でご覧いただけます。

Borneo

Episode.1

「OLYMPUS E-3」を手に、40年ぶりにボルネオ島へ。

僕は2008年、3回にわたって東南アジアのボルネオ島に撮影取材に訪れた。およそ40年ぶりなのだが、それには理由がある。ボルネオ島はインドネシア語ではカリマンタン島とも呼ばれる、赤道直下の島。鬱蒼とした熱帯雨林が広がり、そこにはマレー語で“森の人”を意味するオランウータンや、数多くの野生動物が生息している。ところがいま、希少な野生動物たちを育んでいるボルネオの森が、伐採などにより急速に失われているという。それを聞いた僕は、実際に自分の目で野生動物の様子を確かめたいと、いてもたってもいられなくなったのだ。まず4月の終わりから5月にかけ、ボルネオ島の南、インドネシアのタンジュン・プティン国立公園に、E-3とともに向かった。

ボルネオってどんなところ?
ボルネオ島はカリマンタン島とも呼ばれ、東南アジアに位置し、マレーシア、インドネシア、ブルネイの3つの国に属した世界で3番目に大きな島(日本の約2倍の面積)です。約1億年も前にできたというこの島の貴重な熱帯雨林の中には、オランウータンをはじめとする数多くの希少な野生動物たちが暮らしています。 ボルネオ地図

「2010年OLYMPUS/WWFカレンダー」より      

この湿気、これがボルネオだ。

さあ、ボルネオの撮影取材の開始だ。熱帯特有の湿気がじとっと僕にまとわりつく。まるで湿気100%といった感じだ。本来ならこの時季は雨季が明ける頃なのだが、今年はまだ雨が残っている。近年はどうも、雨季・乾季と分けるのが難しくなっているという。これはいったい何を意味するのだろうか。ボートに乗り、川をさかのぼっていく。木の茂みからカニクイザルが姿を現した。ニホンザルとよく似ている。川辺で食べものを探すのだろうか。おっ、あそこにいるのは、サイチョウだ。黄色の大きなくちばしで、小さな木の実をついばんでいる。食べることに集中しているのか、なかなか飛び立とうとしない。くちばしの先が赤い実の色に染まっている。さまざまな動物たちに出会うたび、僕は夢中でシャッターを切った。木漏れ日の射すボルネオの森に、だんだん日が落ちてきた。そろそろテングザルが現れていい頃だ。

Episode.2

あっ、天狗が跳んでいる。

ここは、ボルネオ島の南にあるインドネシアのタンジュン・プティン国立公園。川の両側に熱帯雨林が広がっている。鬱蒼とした森の中、僕はE-3を片手にボートに揺られながら川をのぼっていく。木の合間をひらりと見え隠れするものがいる。あっ、テングザルだ。彼らはボルネオだけに生息し、その名のとおり、とても長く大きな鼻をもつ。オスの成獣ともなれば、鼻が口まで垂れ下がるほどだ。枝から枝へ、長い尾で上手にバランスをとりながら、すばやいスピードで跳び移る。そのさまも、まさに天狗を思わせる。

テングザルと会えるのは、ここボルネオだけだ。

彼らは絶滅を危惧されている動物だが、ここタンジュン・プティンではよく見かける。昔よりもむしろ、頻繁に会えるようになっているという。しかしそれは、決して喜ばしいことではない。ボルネオの森は薄っぺらくなっている。他の地域の自然林が失われたことにより、ここに集るしかなくなったのだ。とても皮肉なことに思えた。テングザルたちが、やわらかなピンクの新芽を夢中になって食べている。ファインダーを覗きながら、野生動物というのは、いちばんおいしい時期、旬をちゃんと知っているなあと、つくづく思う。

Episode.3

"森の人"オラウータンが暮らしている。

ボルネオを代表する野生動物といえば、何といってもオランウータンだ。森の中で何やらポトンポトンと音がする。あたりを窺うと、木の上にオランウータンがいる。木の実を食べていて、そのタネを落とす音だったのだ。あとで僕も、どんな味だろうと思い、その実を食べてみた。リンゴに似ているが、ちょっと酸っぱい味がした。僕の目の前でオランウータンの子供が「お母さん、何を食べているの?」と確かめるかのように、母親に顔を近づけていく。オランウータン、特に子供の表情は実に豊かだ。時折すねたような顔をすることもあり、とにかく見飽きない。このアジアで唯一の大型類人猿は、かつては東南アジアに広く分布していたというが、現在はここボルネオ島とスマトラ島に生息するだけだ。

いつのまにか湿気がイヤでなくなっていた。

雨が激しく降ってきた。オランウータンも空を見上げ、雨が降るのをじっと眺めている。40年ほど前、初めてボルネオを訪れた時は、この湿気にはほとほと悩まされた。カメラをどうやって守るか気になってばかりいた。いま考えてみると、その頃の僕は、ボルネオの湿気に対して闘おうと懸命になっていたのだ。それは、賢いとはいえない抵抗だったかもしれない。「郷に入っては郷に従え」そんな言葉が頭に浮かぶ。オランウータンの自然な動きを見ているうちに、ボルネオの雨や湿気をいつのまにかイヤだと思わなくなっている自分に気がついた。

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