撮影取材記:カナダ エスキモードック編

岩合さんが世界各地で撮影した動物たちの写真レポートです。国・地域別でご覧いただけます。


10月8日。僕とキャメディア(オリンパスのデジタルカメラ)は極北の地カナダのマニトバ州チャーチルに到着しました。
ハドソン湾に面した人口900人ほどの小さな港町です。
30分も歩くと一周できてしまうこの町が、毎年この時期(10月~11月)になると、1万人をこえる観光客でごった返す。ここは世界で唯一、野生のホッキョクグマを間近で観察できる場所。
僕の目的も、もちろんホッキョクグマの撮影だったのですが・・・




「ホッキョクグマの前にカナディアンエスキモードッグに会っていかないか」という話が飛び込んできました。
世界中を探しても300頭前後しかいない希少犬です。もちろん僕も、実物を見たことはありません。
ワクワクしながら、町から十数キロ離れた海沿いの岩場に向かいました。
気温マイナス10度、台風並みの強風が吹き荒れる中、数えきれないほどのカナディアンエスキモードッグが楽しそうに遊んでいるではありませんか!寒さにふるえながらキャメディア(オリンパスのデジタルカメラ)を構える僕に、「今年は、秋が長くて、あったかいなー」と現地スタッフ。海さえ凍るこの地では、厳寒期にはマイナス50度を記録することも珍しくないのです。

   

カナディアンエスキモードッグはその名の通り、イヌイットのパートナーとして活躍していた猟犬です。しかし、イヌイットの多くが狩猟生活から離れ、数十年前には絶滅寸前に追い込まれました。
そんな時、カナディアンエスキモードッグを保護すべく、州政府が白羽の矢をたてたのがブライアン・ラドゥーン氏。イヌイットから託された3頭を大切に育て始め、今では100頭近くを飼育する最大の繁殖家になりました。
ブライアンときたら、食事をしてるときも話題は犬のことばかり。全身全霊をかけてカナディアンエスキモードックたちの面倒を見ている様子が伝わってきます。





カナディアンエスキモードッグの遊び場は、見渡しても見渡しても水平線と地平線ばかりの凍える大地。
生き物が極端に少ない酷寒の地に生まれ育ったせいか、彼らは動くものに過剰なほどの興味を示します。
今日のお相手は、食べ残しの餌を狙って降りてきた、ユキホオジロやワタリガラス。
あそぼーよー、と跳びかかると、鳥たちは慌てて逃げていきます。
僕がキャメディア(オリンパスのデジタルカメラ)のスマートメディアを交換しようと、つい手を滑らせた時のこと。
一頭が疾風のように飛んできて、ガブリ!
「あ~あ、いいショットがあったのに・・・」
残念ながら撮影したデータとは、永遠にサヨナラです。


カナディアンエスキモードッグの餌は、生肉。鳥でも牛でもなんでも、とにかくよく食べる。だから吹雪の日も、闇の中も巨大な冷凍肉の塊をトラックに積んで犬たちのもとへ走る。
おかげで、ブライアンのトラックは肉の匂いにつられたカラスの集会所みたいです。
ところで何故町から十数キロも離れた場所で、犬たちを飼っているかって?
大地を揺らすような彼らの咆哮が、連日連夜町中に響いたらたまりませんからね。




キャメディア(オリンパスのデジタルカメラ)で犬たちの撮影を続けているうちに、
驚くべき風景に出会いました。
丸いはずの太陽が、長方形の細長い棒のようになって
水平線に沈んでいくのです。
「これが、噂に聞いた“太陽柱”か!」
サバンナで見た四角い太陽に
負けず劣らず神秘的なサンセットです。
キャメディアを構えるのも忘れてしまうほど、
見とれてしまいました。


カナディアンエスキモードッグは、天性の甘えん坊。すぐに足下にすり寄ってきて、「ボクって、カワイイでしょ」と僕の顔を見上げてくる。子犬なんて、もう頬ずりしたいくらい。でも、ぎゅって抱えると、これが骨太でものすごくしっかりしているんです。
生まれたときから、厳しい自然に耐えられるような体つきになっているんでしょうね。おまけに、オスはおそろしく獣臭い。
いったんすり寄られると、もう着替えなきゃ我慢できないくらい。
強烈な臭いが一日中体にまとわりついてきます。





僕たちがチャーチルに入ってから1ヶ月
晴れたのはたった2-3日。
マイナス10度から20度という寒さに加え、
立っているのがやっとという暴風にも襲われ、
キャメディア(オリンパスのデジタルカメラ)にとっても過酷な撮影の日々でした。
でも、厳しい自然は僕たちに
とっておきのプレゼントを用意してくれました。
続けて晴れた二日目の夜、
幻想的なオーロラが空一面に広がったのです。
みんなで大地に寝転がって眺めているうち、
うれしくなって、つい口笛を吹いたんですね。
そしたら、オーロラが応えてくれるんですよ。
偶然かと思って何度やっても、僕が口笛を吹くと反応する。
まるで、美しい生き物のようでした。
さあ次は、いよいよ野生のホッキョクグマとの遭遇です。


「アフガンで戦争が始まったよ・・・」
チャーチルに到着した僕たちを迎えてくれたのは、Welcomeの抱擁ではなく、緊迫した空気でした。
9.11同時多発テロから1カ月。
世界を揺るがした大事件は、極北の小さな町ののどかささえも吹き飛ばしてしまったようです。
争いで失われるいのち。ただ滅びるのを待ついのちもある。
ヒトはいのちの、生きていくことの素晴らしさを知っているはずなのに・・・ (岩合光昭)

▲ページの先頭へ