撮影取材記:エジプト 前編

岩合さんが世界各地で撮影した動物たちの写真レポートです。国・地域別でご覧いただけます。



意外に思われるかもしれませんが、実は家畜なんです。デジタルカメラで身の回りの自然や動物をスナップしているうちに、ごく身近なものに対しての興味がグンと強まりましてね。よし、ここらで本腰を入れて、家畜という動物と向き合ってみよう、と思ったわけです。もともとは家畜も野生動物であったはずなのに、人類はなぜ、家畜という存在を生み出し、どのように関わってきたのか。それを探るには、文明の発祥の地へ行くのがイチバン。というわけで、21世紀が始まったばかりの1月20日から約3週間、「キャメディア(オリンパスのデジタルカメラ)」を連れてエジプトへ、家畜と人々の生活の撮影取材をしてきました。

成田を発ち、フランスのシャルルド・ゴール空港に一泊して、エジプトの首都カイロへ。昼間は20度近くまで気温も上がりますが、夜間は吐く息が白くなるほどの寒さ。エジプトは今回で3度目ですが、最初に訪れた30年ほども前は、ガラベイヤという民族衣装を着ている人々を見て、パジャマ姿かと思ったものです。
さて、撮影取材はカイロ郊外で行われている「家畜市」から始めました。牛も羊も山羊も、そして売買する人間もぎっしり。さあ家畜を撮るぞ、と意気込んでファインダーをのぞくのですが、最初のうちは困ったことに、なぜか視線がいくのは家畜より人の方。
エジプトで会う人々は実に強い目をしていて、どうも僕はその目に引き込まれてしまうらしい。シャッターを押し続けているうちにやっと、動物と人のシャッターチャンスが掴めるようになりました。そして次に訪れたのが、やはりカイロ郊外で開かれている、世界最大の「ラクダ市」です。

こんなにたくさんのラクダを間近に見たのは、僕も初めての体験。この市は毎週一回開かれ、リビアからスーダンから、トラックで運ばれたり、自分の脚で歩いたりしながら、2000頭を数えるラクダがやって来るとか。少年が上手にムチを操り、やって来るラクダの交通整理係を勤めている。ラクダは脱走しないように、脚を縛られる。ところで、これらのラクダ、使役用だとばかり思っていたら、食肉用としても売買され、歯ぐきの健康状態を見て、肉質をチェックしているらしい。ラクダの肉、僕は食べていないのだけど、カタイそうだ。売買の人々は札束を持って、歩き回っている。交渉が成立すると、ガラベイヤの袖の下で現金の受け渡しをしている。たいていのラクダはおとなしくしているが、不意に一頭が暴れた。そのラクダはナイフで耳を切られ、それでも静まらず、鼻を切られた。そしてついには、その場で屠殺されました。「ラクダ市」をあとに、僕はカイロ郊外からナイル川流域へ向かうことにした。
(岩合光昭 談)

エジプト

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