撮影取材記:中国 キンシコウ編

岩合さんが世界各地で撮影した動物たちの写真レポートです。国・地域別でご覧いただけます。

The Qinling Mountains 中国・秦嶺山脈 幻のサル:キンシコウ編1 孫悟空のモデルになった幻のサルを求めて、さあ出発だ
気分はまさに、玄奘三蔵法

2003年8月、僕は20年ぶりに中国の大地に降り立った。
今回の目的は、幻のサル・キンシコウ。
「西遊記」に登場する孫悟空のモデルとも言われる、
黄金の毛を持つ美しいサルだ。
撮影の旅の出発点となるのは、陝西省の西安。
唐の時代には長安と呼ばれ、
「西遊記」で玄奘三蔵法師が西方に向けて旅立ったのもこの地だ。
伝説と現実が目の前でリンクして、気分がどんどん高揚してくる。
パートナーはもちろん、オリンパスの最新デジタル一眼レフカメラ「E-1」。
高山の樹上で暮らすキンシコウの撮影には、
300mm望遠レンズ(35mm換算で600mm相当)が活躍してくれるはずだ。
シルクロードの街から、険しい山岳地帯へ。

西安は、かつて異文化が交流したシルクロード端緒の街らしく、
仏教の国にあってイスラム教徒の数がかなり多い。
エキゾチックな雰囲気にあふれていて、「E-1」を持って街を歩くと、シャッターチャンスがあふれている。
しかし僕たちが目指すのは、西安の南西に連なる秦嶺山脈。
それは中国の二大大河、揚子江と黄河の分水嶺で、最高峰は富士山より高く、3767mの「太白山」。
野生のキンシコウが観察されているのは、そんな秦嶺山脈の標高1,600~1,900mあたり。
険しい山岳地帯での撮影となる。
まる二日かけて撮影の最終準備を整え、いよいよ出発だ。
キンシコウは、中国とベトナム、あわせて4種が確認されているが、
黄金の毛を持つものは、ここ陝西省の秦嶺山脈と四川省にしか生息しないという。果たして、どんな美しい姿を見せてくれるのだろうか。期待に胸が高鳴る。

中国・秦嶺山脈 幻のサル:キンシコウ編2 キンシコウの棲む山への入り口。そこは標高1,500mの村


行く手を阻む、雨、雨、雨。
「きんと雲(・・・・)があれば、ひとっ飛びなんどけどな(笑)」
西安から南西に150kmほどいくと、キンシコウの棲む秦嶺山脈がはじまる。
僕たちが訪れたのは、ちょうど夏から秋にかけて続く雨期の真っ最中。
豪雨の影響は凄まじく、秦嶺山脈へ至る道が崖崩れで、何カ所も寸断されていた。
途中、20km近くの大渋滞に巻き込まれた時のこと。
トラックの運転手に「どのくらい待っているの?」と聞いたら、
「いやあ、3日くらいかなあ」日本では、考えられない忍耐力だ。
国道からそれて、自動車からオート三輪に乗りかえる。
山道に入ってからも、天候は回復しない。
しかし運転手は視界の悪いのもお構いなしに、断崖絶壁の崖道を爆走する。
僕は思わず悲鳴をあげてしまった。
オート三輪の荷台にゆられ、ようやく秦嶺山脈の中腹、標高1,500mほどに位置する
玉皇廟(オウコウビョウ)村に到着した。
えっ、家の窓からキンシコウが見れる!?
玉皇廟村の人口は約5~600人ほど。
ぽつりぽつりと点在する民家の庭では、ニワトリが駆け回り、ブタがうろついている。
村に至るまでのハードな道のりから一転して、のどかな風景にこころが「ほ
っ」と一息ついた。
村唯一の小学校を訪れると、遊具ひとつない校庭で子供たちが遊んでいた。
真剣な顔で、ケンケンしながら体をぶつけ合っている。転ぶと、負けだ。
夕陽に子供たちの影が長く伸び、楽しそうな声が山間にこだまする。
「E-1]のファインダーに飛び込んでくる、彼らの無邪気な表情。
僕たちが忘れかけていた遊びの原点がここにはあった。
「キンシコウって、知ってる?」子供たちに尋ねた。
「うん。僕の家の窓から見たことあるよ」ひとりの少年が手をあげて答える。
「えっ!?世界的に希少な保護動物が・・・」
実はこの少年の家は、村のいちばんはずれで、キンシコウ生息地帯の麓にあったのだ。
中国・秦嶺山脈 幻のサル:キンシコウ編3 キンシコウ。それは孫悟空以上に、神々しいサルだった。


まさに黄金。こんな美しいサル、見たことがない。

2~3,000m級の高山に生息すると言われているキンシコウ。
観察されている最も低い地点でも、標高は1,600~1,900m。
村から1時間以上かけて、さらに山を登らなければならない。
案内役は長年にわたりキンシコウの研究を続けている、西北大学の李教授とそ
の研究生たち。
そしてキンシコウを探してくれるのは、玉皇廟村の村人たちだ。
彼らの先導で、秘境と言っても過言ではない山林の中を歩き、山間の谷にたど
り着いた。
そのとき、あたりの空気がさーっと変わった。
雨の切れ間に一瞬差した太陽の光を浴び、黄金に輝く毛をなびかせながら、
木の枝から枝へと飛ぶように約80頭ものキンシコウが、この谷に降りてきたのだ。
「ものすごくきれいなサルだなあ」
「E-1」を構え、その鮮やかな姿を追う。
群れの中でひときわ目立つのが、オスのキンシコウ。
たてがみのように長い黄金の毛が背中を覆っている。
よく見ると、生まれて数ヵ月の白くて小さな子どもを、
お腹にしがみつかせたまま移動しているメスもいた。
争いごとのない平和な社会が、ここにあった。

キンシコウは1頭のオスと数頭のメス、
そしてその子どもたちがひとつのユニットを作り、
さらにいくつもユニットが集まって大きなグループを形成している。
驚いたことに、どのオスの顔をみても、ほとんど傷がない。
集団生活につきものの争いごととは無縁の、
平和な社会で暮らしているのだろう。野生動物には珍しい穏やかさだ。
ある時、興味深い行動を目にした。
彼らは正面から出会ったときに、まるで恋人同士のように、お互いにぎゅっと
抱擁しあうのだ。
野生のキンシコウとの、貴重な出会い。
クライマックスは、主にオスが発しているように思えたその鳴き声だ。
「イェーン、イェーン」心まで澄みきってしまうような美声が、
秦嶺山脈の谷間に響き渡った。

※このサイト内の中国での画像の一部はNHKの放送番組の収録時にオリンパスのデジタルカメラにて撮影されたものです。

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